『何者』朝井リョウ

 

何者

何者


  就職活動まっただ中の大学3年生。
「将来何をやっていきたいのか」、働いていなのに答えを出さなければならないとはなんて非情な世の中か。そんなにリアルな未来を描けないなかで、精一杯の想像力で挑むしかない面接。就職するために、やりたいかどうかわからない仕事にむけて、様々な武器をまとった自己PRで挑むものの、落選。わたしにもあった過去だ。落選が続くと自分への信頼が揺らぎ、他人への猜疑心が強くなる。そんな就職活動における心理戦を丁寧に見事に!!描いた本。
 
 この本は就職活動という人生でも特異な経験をした多くの人が共感できる話ではなかろうか。わたしはまさに、自分の実体験を読んでいるような錯覚に陥った。この本の中には私がいたし、私の友人がいた。だから、就職活動は終わっても、そんな心理戦は全然終わりじゃないのだと彼らは知ることになる。その先の未来を少しずつ垣間見ている今の方が、この就活模様は息苦しい。
 あれから数年がたち、実際の社会人をやってみると、「何者」かになるのは相当に難しいと気づく。それでも、昔と変わらず、もしかしたら年ととればとるぶんだけ、「何者」かになりたいという欲求と焦りは募るばかりかもしれない。


 自分の想像の中のアイディアはいつでも傑作で、それに点数をつけられることを恐れ、永遠に夢を見続ける。人生のどの地点で、点数をつけられる勇気を持てるかが、その人の人生を決定づけるような気がしてならない。
 自分の心の深いところをえぐる良本。自分への戒めも含めて。かっこわるいことを恐れずに生きて行きたいと切に思う。