『運命ではなく』 ケルテース・イムレ

運命ではなく

運命ではなく


 ハンガリーに住むユダヤ人の少年が、ある日突然ナチス強制収容所に連行される。収容所での日常を子供目線で描く小説。
 私たちがアウシュビッツだとかナチスという単語から連想する歴史的知識は、ほんの表層でしかなくて、どこの人がどれだけ死亡し、どれだけひどい扱いがなされたか、殺され方やバラックのしくみ、労働の種類や病人の扱い方など、記録された知識がほとんどだ。私はアウシュビッツ系の小説はこれと『夜と霧』しか読んだことないので、それもあるのだけれど。。
 これは、一人の人間が収容されてから解放されるまでの日常を負う小説であるところがいい。ラスト10ページは何度読んでも感動する。
 強制収容所に連行され、悲惨な生活を強いられる毎日は、決して運命なんかではなく、その一歩一歩に選択の自由があったのだと力説するシーンや、回りの人間が、収容所での地獄のような体験しか聞きたがらないのに対し、「まだあそこにいた時ですら、煙突のそばにだって、苦悩と苦悩の間には、幸福に似た何かがあったのだから。ーいずれ次の機会に質問されたらー強制収容所における幸せについて話す必要がある」と結ぶなど、現代の私たちの毎日勇気をくれること間違いない。